【新規ビジネスの規制対応】国内e-Sports大会の高額賞金と法律

コンプライアンス

新しいビジネスモデルを構築する際には、それまで法律が想定していなかったであろう問題点が生じることもあります。

法律や規制を遵守しながら進める必要がある一方、当時の法律が想定していなかったり、追いついていなかったりするような場面で、理論武装しながらビジネスを進めてきた過去の営みは、今後、新しいビジネスモデルを構築しようとする方々にとっても参考になるものと思います。

そこで、本記事では、国内でe-Sports大会を行う際に、高額賞金を出せるか、検討されてきた内容を解説していきます。

e-Sportsとは

検討の前提として、「e-Sports」とは何かを見てみましょう。e-Sportsとは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲームやビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称です。

参考:

eスポーツとは | 一般社団法人日本eスポーツ連合オフィシャルサイト
日本におけるeスポーツの普及と選手レベルの向上を目指し、産業の発展に寄与すべく活動をしていきます。

大会シーンも活発に行われており、大きな大会ともなれば、対戦ゲームの勝者には、名誉と、更には賞金が与えられることもあります。

法的な観点からは、大会において、高額の賞金を出すことが、法律に抵触しないかが問題とされました。

高額賞金を出すにあたって問題とされた法律

問題とされた法律は、「不当景品類及び不当表示防止法」です(以下「景表法」といいます。)。

景表法による最高額の制限

景表法第4条は、「内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる」とし、これを受けた告示「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」は、懸賞により提供する景品類の最高額は、検証に係る取引の価額の二十倍の金額(当該金額が十万円を超える場合にあっては、十万円)を超えてはならないとしています。

参考:公正取引委員会告示「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/public_notice/pdf/100121premiums_8.pdf

そのため、景表法上、e-Sports大会の賞金が「景品類」に該当する場合には、最高額が10万円までしか出せないのではという懸念がありました。

景品類の該当性

景表法上、「景品類」とは、「顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済的利益であって、内閣総理大臣が指定するものをいう」とされています(景表法2条3項)。

そして、消費者庁の「景品類等の指定の告示の運用基準について」(景品類等指定告示運用基準)によれば、ここにいう「取引に付随して」には、取引を条件としない場合であっても、「商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合」も含まれます。

参考:消費者庁「景品類等の指定の告示の運用基準について」

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_20.pdf

通常、対戦型のゲームにおいて、大会で優勝・入賞するほどにゲームの技術を向上させるためには、繰り返しゲームをプレイし、練習を重ねることが必要です。そうすると、有料買切型のゲームや、ゲームをプレイするために従量課金が必要なアーケードゲーム等では、ゲームを購入することにより、経済上の利益である賞金獲得が容易になるという関係にあり、高額賞金を出せない懸念がありました。

当時の懸念を基礎づけた消費者庁の見解

この懸念は、当時の消費者庁の見解にも表れています。

平成28年9月9日付け消表対第1306号の「法令適用事前確認手続回答通知書」は、家庭用ゲーム機向けソフトの購入又はゲームセンターに設置されているアーケードゲームに金銭を支払うことにより遊技することが可能なゲームの賞金制大会の事例であって、当該アクションゲームの「技術向上のためには、原則的に繰り返しのゲームプレイが必要であるため、有料ユーザー以外の者が成績優秀者として賞金を獲得する可能性は低いと考えられる」事例において、当該アクションゲームを利用した賞金制大会につき「有料ユーザーが賞金という経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる企画」であって、「成績優秀者に提供される賞金は、『取引に付随』する提供に当たる」と判断しています。

参考:平成28年9月9日付け消表対第1306号「法令適用事前確認手続回答通知書」

https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_160909_0005.pdf

高額賞金を出せるかの検討

「取引に付随して」といってしまうことへの疑問

もっとも、上記の景品類等指定告示運用基準が「商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合」の例として挙げるのは「商品を購入しなければ解答やそのヒントがわからない場合、商品のラベルの模様を模写させる等のクイズを新聞広告に出題し、回答者に対して提供する場合」です。そうすると、景品類等指定告示運用基準は、商品又は役務の購入により、経済上の利益の獲得をかなり直接的に容易にしているケースを念頭に置いているように思われます。

他方、e-Sports大会の賞金のケースでは、賞金獲得のため、繰り返しのプレイによる技術向上が必要不可欠であり、そのような技術向上によって高い腕前を身に付けたプレイヤー達の中で、更に秀でたプレイをしなければ賞金に辿り着くことはできないものです。ゲームを購入したからといって、簡単に大会を勝ち上がることができるようになるものではありません。

そうすると、ゲームを購入することは、練習がしやすい環境を整えるための前提に過ぎず、ゲームを購入しただけでは、景品類等指定告示運用基準が想定するように賞金の獲得が容易になるものではないともいい得るように思われます。ここに、景品類等指定告示運用基準の文言をそのまま当てはめてしまうことへの「違和感」があるように思われました。

余談になりますが、このような「違和感」は、新規のビジネスモデルを構築し、そのビジネスモデルが法令に抵触しないように進めていくにあたって、重要なものだと考えています。

このような「違和感」なく、法の「抜け道」を探そうとする試みは上手くいかないことが多いと感じており、筆者としては、法令遵守は前提としつつも、法の守ろうとしている利益からすると、字面だけを見て新規のビジネスモデルに規制を及ぼすことに違和感があるといった感覚を大事にする方が、上手くいく可能性は高いように思います。

景品類に該当しないロジック:「仕事の報酬」

そこで、「景品類」に該当しないロジックが検討されました。手がかりとなったのは、景品類等指定告示運用基準にある「取引の相手方に提供する経済上の利益であっても、仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供に当たらない」という文言です。

高い技術を用いたゲームプレイの実技・実演や、それに類する魅力のあるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せることが仕事の内容として期待されるプレイヤーに対する賞金の支払は、「仕事の報酬等」であって、景品類に該当しないと考えられます。

工夫としてのプロライセンス発行

当該賞金が「仕事の報酬等」であるといえるプレイヤーに限定する一つの工夫としては、一定の相応しいと認められる者に、プロライセンスを発行する方法があります。賞金の支払先をこのようなライセンス選手に限定した大会では、支払われる賞金は「仕事の報酬等」であるといえるため、高額賞金を出すことも可能と考えられます。

プロライセンスが必須条件ではないこと

また、プロライセンスは、賞金制大会を行うための必須条件ではなく、その他の方法も考えられるところです。プロライセンスを用いずとも、例えば、予選大会等によって選手を選抜し、本選である賞金制大会では、当該選手が高い技術を用いたゲームプレイの実技等の魅力あるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せ、大会の競技性・興行性を向上させることが期待されるような設計であれば、同様に「仕事の報酬」として、景品類に該当しないと考えられます。

消費者庁の見解

その後、消費者庁の見解においても、①賞金の提供先をライセンス選手に限定した大会や、②賞金の提供先に資格制限を設けないが一定の参加者を限定した上で大会等の成績に応じて賞金を提供する大会に関して、これらの参加者への賞金の提供は「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、景表法第4条の適用対象とならないことが確認されています。

照会書:https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190805_0001.pdf

回答書:https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190903_0002.pdf

賞金の提供先をライセンス選手に限定した大会

令和元年9月3日付け消表対620号の「法令適用事前確認手続回答通知書」は、照会のあった事例のうち、賞金の提供先をライセンス選手に限定した大会について、参加者への賞金の提供が「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、景表法第4条の適用対象とならないことを確認しています。

対戦型コンピューターゲームを使用して参加者同士で勝敗を争い最終成績が決定される競技型のゲーム大会やリーグ戦(以下「大会等」という。)における賞金の提供先を照会者がプロライセンスを付与した選手(以下「ライセンス選手」という。)に限定する大会等に関しては、
〇「ライセンス選手は、当法人が別途公認する大会において大会規約に基づき好成績を収め、競技性、興行性ある大会等へ出場するゲームプレイヤーとしてプロフェッショナルであるという自覚を持ち、スポーツマンシップに則り、ゲームプレイの技術の向上に日々精進することを誓約する者で、ライセンス取得に相応しいと判断された者である」
〇「ライセンス選手は、大会等において高い技術を用いたゲームプレイの実技又は実演により好成績を収め、大会等の競技性及び興行性の向上に資する者であることが類型的に保証されている」
〇「ライセンス選手には、仕事の内容として、高い技術を用いたゲームプレイの実技又は実演を多数の観客や視聴者に対して見せ、観客や視聴者を魅了し、大会等の競技性及び興行性を向上させることが求められている」
とのことであり、(中略)これらの点によれば、当該大会等における当該参加者への賞金の提供は、景品表示法における景品類の制限の趣旨の潜脱と認められるような事実関係が別途存在しない限りにおいては、運用基準第5項(3)に規定する「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、「景品類の提供に当たらない」ものと考えられることから、景品表示法第4条の規定の適用対象とならないものと考えられる。

令和元年9月3日付け消表対620号「法令適用事前確認手続回答通知書」
https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190903_0002.pdf

賞金の提供先に資格制限を設けない大会

また、上記の回答は、賞金の提供先に資格制限を設けない大会についても、以下のように述べ、参加者への賞金の提供が「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、景表法第4条の適用対象とならないことを確認しています。

賞金の提供先に資格制限を設けないが一定の方法で参加者を限定した上で大会等の成績に応じて賞金を提供する大会等に関しては、
〇参加者は、「所定の審査基準に基づいて大会等運営団体から審査を受けて、参加資格の承認を受けなければならない。当該基準によって選抜される選手は、(中略)高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力あるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せることが仕事の内容として期待されており、大会等の競技性及び興行性の向上に資する者であることが類型的に保証されている」
〇「本ケースにおいて賞金を受け取る可能性のある選手は、仕事の内容として、高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せ、大会等の競技性及び興行性を向上させることが求められている」
とのことであり、これらの点によれば、当該大会等における当該参加者への賞金の提供は、景品表示法における景品類の制限の趣旨の潜脱と認められるような事実関係が別途存在しない限りにおいては、運用基準第5項(3)に規定する「仕事の報酬等と認められる金品の提供」に該当し、「景品類の提供に当たらない」ものと考えられることから、景品表示法第4条の規定の適用対象とならないものと考えられる。

令和元年9月3日付け消表対620号「法令適用事前確認手続回答通知書」
https://www.caa.go.jp/law/nal/pdf/info_nal_190903_0002.pdf

終わりに

このようなe-Sports大会における高額賞金のケースは、法律や規制を遵守しながら進めるという前提を守りながらも、理論武装しながら法規制の壁を乗り越え、ビジネスを進めてきた営みでした。

このような営みの蓄積は、今後、新しいビジネスモデルを構築しようとする際にも、参考になる点を含んでいると思います。

なお、景表法の観点は上記のとおりですが、実際にe-Sports大会を開催するにあたっては、ゲームタイトルの知的財産権の取扱いや、賞金提供の仕組みが賭博に該当しないための運営費の取扱いの検討等、他にも、検討すべき事項が多岐にわたるため、弁護士にご相談いただくことが良いかと思います。