【フリーランス向け】業務委託報酬が支払われていない!未払いに遭った場合の対処法を解説

フリーランス

フリーランスや個人事業主の皆様など、業務委託で働く方々にとって、報酬が支払われるかどうかは、事業の継続性にもかかわる重要な問題であると思います。

本記事では、業務委託報酬が未払いとなってしまった場合に受託者側が取り得る回収手段を解説していきます。

まずは報酬請求の根拠を確認

まずは報酬請求の根拠を確認しましょう。

委託者にお金がない場合や、お金があっても支払うつもりがない場合等には、受託者から報酬を請求しても、何かと理由を付けて、「支払う義務がない」と争ってくることが考えられます。催促を続けても支払ってもらえない場合には、法的手続を視野に入れて回収を図ることとなりますが、その場合には報酬請求の根拠を論理立てて説明する必要がありますので、初めの段階で、報酬請求の根拠を確認しておくと良いでしょう。

また、時折あるのが、「自分が請求書の発行を忘れていた」「支払期日を勘違いしていた」といった事態です。委託者に落ち度がないのに、誤って報酬の催促をしてしまうと、大切な取引先と気まずい事態になってしまうこともあるため、これを避けるためにも、初めに報酬請求の根拠を確認しておくことは有益です。

確認すべき事項としては、以下のものが考えられます。

  • 支払期日はいつか。
  • 報酬請求のフローはどうなっているか(何日締めで請求書を発行し、いつまでに支払われることになっているか等。)。
  • 報酬の支払条件はどうなっているか(成果物の納品がある場合には、適切に納品を行っているか。そうでない場合には、報酬請求の根拠となる報告等を行っているか。)。
  • 支払金額はいくらか。

契約書を作成している場合には、これらの事項は契約書に明記されていることが通常と思いますので、契約書の文言を確認し、報酬を請求できる根拠を満たしているか、再度確認しておきましょう。

他方、契約書を作成していない場合には、受託者と委託者との間で、上記の各事項の認識にずれがある可能性もあります。受託者側から報酬を請求する際には、自分の認識を言語化できるよう、きちんと整理しておくことが良いでしょう。

なお、このような認識のずれを解消するためにも、仕事を受託する段階で、契約書を締結しておくことは重要です。これから仕事を受ける方は契約書を作成するようにしましょう。

メール・電話・チャットなど、普段の連絡手段で支払いの催促

報酬請求に根拠があることが確認できたら、相手に支払いの催促を行ってみましょう。

催促をすることが億劫な気持ちはあるかもしれませんが、仕事をした以上、適切な報酬を受け取ることは当然のことであるため、毅然とした気持ちで催促を行って良いと思います。また、催促のタイミングも、支払期日を過ぎたらすぐに行ってよいと思います。

未払の理由は、相手が単に忘れていただけであったり、相手の事務的なミスで経理処理に漏れがあったりするだけで、支払うつもり自体はあることもままあります。このような場合には、催促すればすぐに支払ってもらえることも多く、その後も円満な取引を続けられることもあります。

最初の催促は、メール・電話・チャット等の普段の連絡手段を使い、礼を失しないように行ってみることが良いと思います。

法的手続を視野に入れた支払いの催促

ここまでの対応を取れば、単に忘れていただけであったり、事務的なミスであったりするなど、支払うつもりのあるほとんどの相手は支払いを行ってくれると思います。

他方で、普段の連絡手段で催促しても支払いを行わない相手に対しては、法的手続を視野に入れて、債権回収に動くことになります。

ここから先は、報酬を請求する受託者と、支払う気がない委託者とのいわゆる紛争状態ですので、弁護士に相談することが良いです。

法的手段を視野に入れた債権回収のためには、まず初めに、内容証明郵便を送付して支払の催促を行うことが考えられます。

内容証明郵便とは、「①いつ、②いかなる内容の文書が、③誰から誰宛てに差し出されたか」の記録が郵便局に残り、日本郵便の証明を受けられるタイプの郵便です。

郵便局 | 日本郵便株式会社
内容証明は、一般書留郵便物の内容文書について証明するサービスです。

内容証明郵便は、あくまで上記①から③の記録が残るというだけで、その文書に書かれた内容が正しいことまで証明するものではなく、法的な効果があるものではありませんが、実際に法的手続を執る前段階で使用されることが多い郵便であるため、「支払われなければ法的手続を執る」という態度を委託者に伝えるためには有効です。

法的手続により回収を図る

業務委託報酬の回収のために取り得る法的手続としては、通常、以下のものが考えられます。

(1) 支払督促

支払督促とは、債権者が金銭等の給付請求を行う場合に、債権者(すなわち、業務委託報酬の未払いの事例では受託者)の一方的申立てにより(民事訴訟法382条)、債権者の主張の真偽の審査をすることなく、支払督促を発する手続です。

支払督促 | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申し立てをしなければ、裁判所は、債権者の申立てにより支払督促に仮執行宣言を付すため、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることも可能です。

この手続は、金銭等の給付請求について、簡易・迅速に、かつ、比較的低コストで、債権者に債務名義を得させて事件を解決することを目的とする手続ですので、債権者の主張する権利自体を債務者が争ってこない場合には、最も有効かつ適切な手続と考えられます。

他方で、債務者が債権者の権利主張自体を争う場合には、債務者側から異議が出ることが通常です。

債務者から異議が出た場合には、債権者の主張の真偽を審査しない督促手続では決着をつけることができないため、通常訴訟に移行します。

債務者から異議が出ることが予想される場合には、支払督促を申し立てるメリットがなくなってしまうため、初めから通常訴訟を利用することも検討すべきです。

(2) 少額訴訟

少額訴訟とは、民事訴訟のうち、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則として1回の期日で審理を終えて判決をすることで紛争解決を図る特別な訴訟手続です。

少額訴訟 | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

請求金額が60万円を超える場合には利用することができませんが、紛争が長期化しないため、迅速に解決したい場合には有力な選択肢となります。

なお、少額訴訟では、1回の審理で即時解決を目指すため、証拠書類や証人は、審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られます。紛争が長期化しないというメリットは、裏を返せば、請求が認められることを、1度の機会に的確に主張立証しなければならないということでもあります。そのため、少額訴訟の利用にあたっては、証拠を的確に揃え切ることが重要です。

少額訴訟の判決も債務名義となりますので、判決が出ても支払わない相手には強制執行を行うことが可能です。

(3) 通常訴訟

委託者(債務者)が債権の成立自体を争ってくることが予想され、請求金額も60万円を超えるような場合には、通常訴訟を利用することとなります。

通常訴訟は、最も原則的な裁判の形態であり、裁判官が法廷で双方の言い分を聴いたり、証拠を調べたりして、最終的に判決によって紛争解決を図る手続です。

通常訴訟では、支払督促と異なり、債権者の主張の真偽が審理されることとなりますし、また、少額訴訟と異なり、何度も期日を重ねて審理を行うため、半年~1年以上の期間がかかることもあります。

また、第一審の判決に対して、不服のある当事者は控訴することができ、さらに控訴審の判決に不服のある当事者が上告・上告受理申立を行うことができるため、このような場合にはより時間がかかります。

もっとも、判決に至る紛争ばかりではなく、訴訟の途中で話し合いにより解決すること(和解すること)もよくあります。通常訴訟の中での和解は、裁判外での和解と異なり、裁判官が間に入り、ある程度の判決の見通しをもったうえで話し合いを行うため、裁判外の和解よりもまとまりやすいことが多いです。

裁判に負けても支払わない相手には強制執行

仮執行宣言付の支払督促を得た場合や、訴訟で勝訴判決を得て確定した場合、仮執行宣言付の勝訴判決を得た場合には、これらに基づき、相手の財産に強制執行をすることができます。

(1) 強制執行とは

強制執行とは、裁判所等が、相手の財産を差し押さえたり、引き渡しを受けたりして、相手から強制的に債権を取り立てることを言います。

強制執行をかけるためには、強制執行によって実現される請求権の存在及び範囲を示した債務名義が必要です。民事執行法22条は、債務名義として、①確定判決、②仮執行宣言付判決、③仮執行宣言付支払督促、④確定判決と同一の効力を有するもの(裁判上の和解調書等)などを定めています。

したがって、上記4の法的手続は、最終的に強制執行をかけられるよう債務名義を取得する手続といえます。

(2) 強制執行手続の流れ

強制執行の対象となる財産の種類により、強制執行手続に違いがありますが、いずれの場合であっても、対象となる財産を特定のうえ、申立を行う必要があります。

不動産に対する強制執行をするには、不動産の所在地の地方裁判所に不動産の強制競売の申立てを行います。その後、その不動産は競売により売却され、債権者は、売却代金から配当を受けることによって債権を回収します。

動産に対する強制執行をするには、動産の所在地の地方裁判所の執行官に動産執行の申立てを行います。その後、執行官がその動産を差し押さえて換価し、債権者は執行官から配当を受けることによって債権を回収します。

例えば委託者の売掛金など、債権に対する強制執行をするには、債務者(委託者)の所在地の地方裁判所に、債権差押命令の申立てを行うとともに、第三債務者に対する陳述催告の申立てを行います。第三債務者とは、債務者(委託者)が債権を有している相手先(顧客等)をいいます。債権差押命令が債務者に送達され、所定の期間(債権の種類に応じて1週間~4週間)が経過すると、債権者(受託者)は第三債務者(委託者の顧客等)から直接債権を取り立てることができるようになります。

なお、債務者がどのような財産を有しているかわからない場合には、財産開示手続という裁判所が債務者を呼び出し、その財産について陳述させる手続により、財産を把握することも考えられます。

財産開示手続 | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

おわりに

以上のように、業務委託報酬が支払われない場合であっても、法的には回収する手段は用意されています。

もっとも、未払を防止するためには、事前の対応も重要です。事前の対応としては、やはり、しっかりとした契約書を結んでおくことが王道です。

仮に契約書がない場合には、支払義務があると裁判所に認めさせることに苦労するおそれもありますし、支払義務が認められるとしても、主張立証に時間がかかり、その間に資金繰りが苦しくなることもあり得ます。

また、如何に法的に筋が通っていたとしても、そもそも相手にお金がない場合には、現実問題として無い袖は振れないため、回収できないこともあります。お金がない相手から仕事を受けてしまい、事後に不払いになることを防ぐためには、相手によっては前払いを提案してみることも検討するとよいでしょう。

弁護士に依頼することで、①事前にしっかりとした契約書を用意すること、及び、②万が一未払いになってしまった場合にも、適切な手段を講じることで、債権回収を図ることができるため、不安があれば弁護士に相談することも有効です。