商品やサービスを広めたい事業者にとって、その商品やサービスの魅力を伝えるために、広告に工夫することはとても重要なことだと思います。もっとも、工夫の仕方によっては、景品表示法の規制に抵触してしまうこともあります。本記事では、規制に抵触せずに広告を運用し、商品やサービスの魅力を知ってもらうために必要な景品表示法の表示規制を解説していきます。
景品表示法の表示規制とは
商品・サービスの品質や価格について、実際よりも著しく優良又は有利であると見せかける表示が行われると、消費者の適正な商品選択を妨げられることになるため、景品表示法は、消費者に誤認される不当な表示を禁止しています。
この規制は、具体的には、以下の条文に定められています。
第5条(不当な表示の禁止)
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
1.商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
2.商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
3.前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
以下では、この規制に該当してしまう表示がどのようなものであるかを解説していきます。
「事業者」
不当表示の主体は、「事業者」です。ここにいう「事業者」とは、「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」と定義されています。「その他の事業」には幅広い活動が含まれますので、営利を目的としているかを問わず、経済活動を行っている者はすべて「事業者」に該当すると解釈されています。
そのため、「自分は『事業者』に該当しないため景品表示法の表示規制の適用を受けない」と考えることは難しいです。
「自己の供給する商品又は役務の取引について」
表示規制が及ぶのは、「自己の供給する商品又は役務の取引について」行う表示です。ここにいう商品又は役務を自己が供給している者であることを、供給主体性といいます。
販売ルート上にある事業者
供給主体性は、当該商品やサービスそのものに限らず、その提供や流通の実態まで考慮して実質的に判断されます。
そのため、自社が開発・製造を行う商品を販売する事業者や顧客にサービスを直接提供する事業者に限らず、卸・小売業のように商品の販売ルート上にある事業者も、その商品に関して供給主体性があると判断されると考えられます。
また、不動産の仲介業者や、フランチャイズチェーンの運営本部のように、自己を通じて商品又は役務を供給していたり、加盟店を通じて商品又は役務を供給していたりする場合にも、その商品又は役務に関して供給主体性が認められると考えられています。
アフィリエイト広告(アフィリエイター側)
アフィリエイト広告において、アフィリエイターは、自己の運営するウェブサイト等において、広告主が供給する商品やサービスの広告となるコンテンツを作成し、アフィリエイトプログラムを通じて、広告主の運営するウェブサイトへのリンク等を掲載しますが、閲覧者は、当該リンクを経由して広告主の販売サイトにアクセスし、広告主から直接に商品やサービスを購入することとなります(その結果、アフィリエイターには成果報酬が支払われますが、通常、この成果報酬も広告主から支払われるものであり、閲覧者と広告主との間の金銭のやり取りにアフィリエイターが介在するものではありません。)。
そのため、アフィリエイターは、通常、商品やサービスを自ら供給している者とは考えられず、供給主体性がないため、景品表示法の規制対象とはなりません。
ただし、どんな広告でも許容されるわけではなく、例えば、虚偽の事実を記載するような場合等には、不正競争防止法に違反するとしてアフィリエイターに対する損害賠償請求が認められることもあり得るため、一定の注意は必要です。
アフィリエイト広告(広告主側)
他方で、アフィリエイト広告における広告主は、自己の商品やサービスを閲覧者に提供するため、供給主体性が認められます。
そして、広告主は、アフィリエイターの表示内容を指定したり監修したりして積極的に内容を決定した場合だけでなく、表示の内容をアフィリエイターに委ねた場合であっても、自己の供給する商品又は役務の取引について表示を行っていると認められ、景品表示法上の責任を問われるおそれがあります。
広告主に対しては、実際に消費者庁から措置命令が出された事例もあるため、広告主の立場では注意が必要です。そのため、アフィリエイターの起用時には、どのようなアフィリエイターを起用するか、どのような条件で広告を作成してもらうかに気を配ることがよいです。
「一般消費者」
景品表示法において規制対象となる表示は、一般消費者に対してなされるものに限られているため、規制対象となるのは、事業者が一般消費者に向けて行った表示です。もっとも、一般消費者ではなく、事業者に向けて行った表示であっても、それが一般消費者の目に触れ、直接的に一般消費者の誤認を生じさせるような場合には、景品表示法の規制対象に含まれるため、BtoBの取引を行う事業者であっても注意が必要になります。
また、事業者に対する表示であっても、事業者の商品又は役務の提供を歪めるような不当表示は、独占禁止法で規制されている不公正な取引方法のうちの、ぎまん的顧客誘引として、規制対象となることにも注意が必要です。以下のとおり、独占禁止法は、ぎまん的顧客誘引として、景品表示法の表示規制と概ね同内容の規制を置いています。
独占禁止法第19条
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
平成21年10月28日公正取引委員会告示第18号(一般指定)
第8項(ぎまん的顧客誘引)
自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること。
規制される不当な表示の類型
優良誤認表示
優良誤認表示(景品表示法5条1号)として規制を受けるのは、商品又は役務の内容について、①実際のものよりも著しく優良である旨示す表示や、②実際にはそうでないにもかかわらず、他の事業者が提供している同種又は類似の商品・サービスよりも自己のものが著しく優良である旨示す表示です。
消費者庁が掲げる優良誤認表示の具体例は、以下のようなものです(優良誤認表示に該当する例が以下の例に限られるわけではありません。)
①内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
引用:消費者庁「表示規制の概要」
例 カシミヤ混用率が80%程度のセーターに「カシミヤ100%」と表示した場合
②内容について、事実に相違して競争業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
例 「この技術を用いた商品は日本で当社のものだけ」と表示していたが、実際は競争業者も同じ技術を用いた商品を販売していた。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/
有利誤認表示
有利誤認表示(景品表示法5条2号)として規制を受けるのは、商品やサービスの価格や取引条件について、①実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示や、②実際にはそうでないにもかかわらず、他の事業者が提供する同種若しくは類似の商品・サービスよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示です。
消費者庁が掲げる有利誤認表示の具体例は、以下のようなものです(有利誤認表示に該当する例が以下の例に限られるわけではありません。)
①取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
引用:消費者庁「表示規制の概要」
例 当選者の100人だけが割安料金で契約できる旨表示していたが、実際には、応募者全員を当選とし、全員に同じ料金で契約させていた場合
②取引条件について、競争業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
例 「他社商品の2倍の内容量です」と表示していたが、実際には、他社と同程度の内容量にすぎなかった。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/
内閣総理大臣が指定する不当表示
上記のほか、景品表示法5条3号は、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」を不当表示としています。
内閣総理大臣が指定しているものは、以下の表示ですので、これらの分野で広告を行う場合には、注意が必要となります。
- 無果汁の清涼飲料水等についての表示
- 商品の原産国に関する不当な表示
- 消費者信用の融資費用に関する不当な表示
- 不動産のおとり広告に関する表示
- おとり広告に関する表示
- 有料老人ホームに関する不当な表示
まとめ
商品やサービスの魅力を伝え、売り上げに繋げていくことは、事業を進める上で大切なことですが、それが消費者に誤認を生じさせるものであると、景品表示法に抵触してしまうおそれがあります。
商品・サービスの品質や価格について、実際よりも著しく優良又は有利であると見せかける表示である等として、法的な責任を追及されないために、表示の内容には気を配ることが必要です。